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東京高等裁判所 平成12年(ネ)1203号 判決 2000年12月13日

控訴人

株式会社高島易断総本部

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

増田利昭

被控訴人

右訴訟代理人弁護士

山崎正俊

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、その営業上の施設又は活動に「東京高島易断運命鑑定」及び「高島易断洗心館総本部」の表示を使用してはならない。

3  被控訴人は、控訴人に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成六年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

本件の事案の概要、前提となる事実及び争点は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決三頁六行目及び一〇頁八行目の「契約」を「競業的行為禁止の特約」に改める。

2  同四頁三行目、六頁八行目及び七頁二行目の「原告代表者」を「控訴人の前代表者C」に改める。

3  同四頁九行目から一〇行目にかけての「使用しない旨の誓約書」を「使用しない旨(以下「本件誓約」という。)が記載された誓約書」に、五頁二行目の「退職」を「退会」に改める。

4  同一一頁八行目から九行目にかけての「本件誓約書」を「本件誓約」に改める。

5  同一二頁五行目の「合意は、」の後に「信義則に反して」を付加する。

二  控訴人の主張

1  争点1(周知な商品等表示)について

原判決は、「『高島易断総本部』及び『高島易断運命鑑定』は、いずれも、一般的意味を有する言葉である『高島易断』と『総本部』ないし『運命鑑定』とを組み合わせたに過ぎないものであり、一般利用者に対して、その役務の出所を表示する機能はないと解される。」(原判決一七頁七行目から一〇行目まで)とするが、誤りである。

すなわち、従来易占業においては、個人営業が大多数で、組織化の程度としても権利能力なき社団等を組織する程度の状態であった中で、控訴人は平成二年にいち早く法人として設立された。さらに、控訴人は、高島易断協同組合の組織化、高島易による易者の教育及び養成を広く行うための易占学院の設立、同学院卒業生の全国的な分布を立脚基盤とする高島易断連合会の組織化を通じて、「高島易断総本部」は、役務供給者内部のみならず、一般利用者に関しても、他の易占業者ないし団体とは異なるものとして識別され、役務の自他識別性を有するに至っている。このことは、易者養成機関を有し、その卒業者による全国的な連合会が設立されている組織が他に存在しないことからも明らかである。

2  争点3(競業的行為禁止の特約違反)について

原判決は、被控訴人が控訴人を退社した場合に「高島易断」及び「高島」の号名を一切使用しないとする本件誓約の合意は、被控訴人に対して著しく不合理な内容の義務を負わせるものといえるから、公序良俗に反して無効であると判断しているが、以下のとおり、事実の誤認及び法令の解釈の誤りがある。

控訴人は、右1のとおり、それまで個人営業又は小規模な団体の林立状態であった易占業界において、易者養成機関の設立、運営等を通じて組織化を進めていたものであるが、易占学院卒業生に対しては、許状(高島易の一定の技能修得を証明する卒業ライセンス)、雅号(「高島易断総本部」の関係者としての意味を有する「高島○○」という称号)及び看板(雅号及び「高島易断○○館」を明示したもの)の付与を行っている。これら許状等の付与は、「高島易断総本部」の名の下に易占業を行うための一定の技能の保証であると同時に、その際に徴収する手数料等(例えば、許状、雅号の付与五万円、看板の付与二〇万円)は控訴人の経営の一支柱ともなっており、上記のような組織化を図るために必要不可欠なシステムである。そして、このようなシステムを実効あらしめるためには、控訴人に加入するなどした者に対して、最低限の遵守事項として、退会後の許状等の返還とともに、「高島易断」及び「高島」の号名の不使用を要求する必要がある。この約定が遵守されないとすれば、易占学院卒業生が「高島易断鑑定所」等の名称を使用するためには一定の経済的支出を要するのに対し、名古屋支部長の要職にあってこうした事情を十分認識している被控訴人のような者が控訴人の了承も得ることなく当該名称を使用することになり、そうなれば、易占学院のシステムの存続自体が脅かされかねない。

このように、被控訴人に「高島易断」及び「高島」の名称使用を認めることで控訴人に重大な不利益が招来されるのに対し、被控訴人は、個人として易占業を行うにとどまらず(控訴人としても、そのような行為についてまで右名称使用を問題とする意図はない。)、控訴人を退会後、「高島易断大慈会総本部」「高島易断洗心館総本部」に加盟し、又はこれを組織して、正面から控訴人と対立するという背信的な悪意に基づく行為を行っており、両者の利益衡量の観点からしても、本件誓約書による右名称不使用の合意は、何ら公序良俗に反するものとはいえない。

3  争点4(損害)について

本件で控訴人が賠償を求めている損害は、被控訴人が高島易断総本部発真会なる団体を創立して、「高島易断」を含む名称を使用して易占業務を行うことにより、一般需要者の間に控訴人の営業との誤認混同が生じ、そのために控訴人の企業イメージが著しく損なわれ、その営業上の信用が毀損されたことに基づく無形損害である。すなわち、控訴人の易占学院においては、運命鑑定士養成のためにしかるべきカリキュラムと試験が実施され、「高島易断運命鑑定」との表示をするに足りる教育、能力認定が行われており、さらに、卒業後の活動支援とその質の維持のため、雅号、許状及び看板の付与が有償で行われている。したがって、「高島易断総本部」「高島易断運命鑑定」等の周知の名称には、このような養成、鑑定技術認定等による信頼性が含まれており、被控訴人の行為は、このような周知性及び信頼性に対する甚大な侵害である。

三  被控訴人の主張

1  争点1(周知な商品等表示)について

控訴人の前代表者Cは、昭和五八年に高島易断総本部発真会を設立した際、「高島」や「高島易断」を含む名称で営業する他の多数の易占業者と識別するため、高島易断総本部に「発真会」を付加して自己の営業表示をした経緯のあることからも明らかなように、「高島易断総本部」には自他識別力がないことを自認していたものである。また、控訴人が商標権を有する「高島易断総本部」の登録商標は、需要者が何人の業務に係る役務であるかを識別することができないとの理由で無効とする旨の審決が確定している。このように、「高島」、「高島易断」ないし「高島易断総本部」に自他識別力がないことは解決済みの問題であり、控訴人の右二1の主張は理由がない。

2  争点3(競業的行為禁止の特約違反)について

控訴人の右二2の主張は争う。「高島」及び「高島易断」の表示は、その創始者であるDが大正三年に没してから現在に至るまで、易、易占業者が誰でも自由に使用できる一般名称であるから、これを控訴人に独占させるべき根拠はない。被控訴人がこれを自己の営業表示として利用することも全く自由であり、自由競争原理に基づく経済的合理性がある。控訴人は、あたかも正当な組織的活動をしているかのような主張をするが、現実には反社会的な実体のあることがマスコミ等の報道からも明らかであり、このような者に「高島」及び「高島易断」の表示を独占的に使用させる結果を招くこととなる本件誓約の合意に法的拘束力を持たせること自体不合理というべきである。右合意が社会的妥当性を欠くものとして無効とした原判決の判断は正当である。

3  争点4(損害)について

控訴人の右二3の主張は争う。被控訴人の行為により控訴人にその主張のような営業上の信用毀損が発生したと見る余地はなく、むしろ反社会的存在である控訴人の活動自体が易占業界の信用をおとしめている。

第三当裁判所の判断

一  控訴人の主位的請求について

当裁判所も、控訴人の不正競争防止法に基づく主位的請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の第三の一「争点1(周知な商品等表示)について」(原判決一三頁二行目から一八頁八行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正

(一) 原判決一三頁八行目の「しかし、」の次に「大正三年の」を付加する。

(二) 同一四頁四行目及び一六頁四行目の「原告代表者」を「控訴人の前代表者C」に改める。

(三) 同一五頁八行目の「理由で、」の次に「平成六年一〇月二四日、」を付加し、末行の「無効審判において」を「、請求人を被控訴人、被請求人を控訴人とする登録無効審判事件について、平成一〇年四月二〇日」に改め、一六頁三行目の「出され、」の次に「その審決取消訴訟において控訴人が敗訴し、」を付加する。

(四) 同一七頁三行目の「『高島(高嶋)』ないし」を削る。

(五) 同一八頁六行目の「原告の周知な商品等表示であると解することは到底できない」を「控訴人の営業の表示として需要者の間に広く認識されているものと認めるには足りないというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない」に改める。

(六) 同一八頁七行目の「原告の請求は」を「控訴人の主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく」に改める。

2  控訴人の当審における主張について

控訴人は、「高島易断総本部」が控訴人の営業の表示として需要者の間に広く認識されていたことの根拠として、控訴人が高島易断協同組合や易占学院等を通じて「高島易断総本部」の組織化を図り、この名称が役務の自他識別性を有するに至った旨主張する。

確かに、証拠(甲一七ないし二一、二五)によれば、控訴人は、高島易断協同組合や高島易断易占学院を通じて、高島易断総本部の表示を使用する易占業の組織化を図り、同学院卒業者は平成六年ころまでに全国で百数十名に上っていることが認められるが、前示のとおり、「高島易断(高嶋易断)」が控訴人以外の易占業者にも一般的に多用され、易占業そのもの、ないし易占業の組織、団体を指す一般的な名称にすぎないことを考慮すると、「高島易断」に「総本部」の言葉を付したにすぎない「高島易断総本部」の表示が持つ識別力は乏しいといわざるを得ず、右の認定事実があるからといって、「高島易断総本部」が控訴人の周知な商品等表示であることを認めるには足りないというべきである。

したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

二  控訴人の予備的請求について

被控訴人が、平成五年二月一四日ころ控訴人を退会した後、高島易断を含む表示を用いて易占業務を営む東京高島易断大慈会総本部に加入し、高島翔山又は高島翔龍と称するとともに、高島易断洗心館総本部なる名称の団体の主宰者となるなどして、「高島易断運命鑑定」等の表示を用いて易占業務を行っていることは、前示のとおりであるところ、控訴人は、被控訴人のこれらの行為は、被控訴人が控訴人に対して入会時に提出した本件誓約書に基づく本件誓約に違反する旨主張するので、進んで、争点3(競業的行為禁止の特約違反)について判断する。

証拠(甲一、三)によれば、被控訴人が控訴人に入社するに際して、被控訴人が平成三年三月一八日付け及び同月二八日付けで控訴人(ただし、書面上は「高島易断総本部発真会」あて)に提出した二通の同文の本件誓約書には、「発真会教師としての自覚と責任を持ち、社会奉仕と会の繁栄のため、奮励努力します。」(1)などの一般的な心得とともに、「退会、休職等実際の業務から離れる場合高島の号名および高島易断の商号及び撰名書、許状等本部から借用した物品についてはこれを速やかに返還いたします。」(7)、「退会した後は高島易断及び高島の号名は一切使用いたしません。」(9)などの条項が含まれていることが認められる。

被控訴人は、内容を理解する余裕もなく本件誓約書に署名したことを理由に本件誓約には拘束力がないと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、まず、控訴人において、退会した後の元会員に対して「高島易断」及び「高島」の号名の使用を禁ずるべき合理的な理由があるかどうかについて見るに、控訴人の設立当時、既に多数の易占業者が「高島(高嶋)」の雅号を用いて、その営業に「高島易断(高嶋易断)」を含む表示を使用し、「高島易断」は、易占業そのもの、ないし易占業者の組織、団体を指す一般的な名称となっていたこと、原告が商標権を有していた、指定役務を「易」とし、「高島易断総本部」の文字から成る登録商標は、商標法三条一項六号に該当するとしてその登録を無効とする旨の審決が確定していることは、前示のとおりである。そうすると、控訴人において、「高島易断」ないし「高島」の名称の使用を独占すべき正当な利益はなく、本件誓約により、控訴人を退会した後の元会員に対してこれらの号名の使用を禁ずるべき合理的な理由は乏しいというべきである。

この点について、控訴人は、易占学院による養成及び許状等の付与を通じて「高島易断総本部」の名の下に自己の易占業を組織化するシステムを維持するためには本件誓約を遵守させることが不可欠である旨主張する。しかし、控訴人の右主張の趣旨とするところは、控訴人による養成や許状等の付与を受けない者が控訴人の営業表示に化体された信用ないし名声を冒用することの不当性をいうものと理解されるところ、「高島易断総本部」との表示を使用したとしても、これが控訴人の周知な商品等表示であるとはいえず、また、控訴人がその商標権者でもない以上、その使用を差し止める権利を有しないのであって、被控訴人がより一般的な名称である「高島易断」の表示を用いたとしても、控訴人に特段の不利益が及ぶものではない。さらに、「高島」の表示は、「高島易断」の一構成部分ないし単なる一般的な名字にすぎないことが明らかであり、その使用を禁止する必要性は一層乏しいといわざるを得ない。そうすると、これら表示の使用を包括的に禁止すべき合理的な理由はないから、控訴人の右主張は採用することができない。

次に、本件誓約により被控訴人の受ける不利益について見るに、被控訴人としては、「高島易断」ないし「高島」の名称を使用することなく易占業を営むことも全く不可能であるとまでは考えられないが、易占業界において「高島易断」の名称は前示のとおり重要な意義を有すること、控訴人を退会した後の「高島易断」及び「高島」の号名の使用を禁止する場所、態様、期間等については何らの限定も付していないことからすれば、本件誓約は、実質的には、易占業についての包括的かつ永続的な競業禁止特約と選ぶところはなく、被控訴人が易占業を営むことを極めて困難とし、被控訴人に不当な制約を課するものというべきである。加えて、控訴人が被控訴人に本件誓約を受忍させるための代償措置(金銭的補償等)が講じられたことを認めるに足りる証拠はない。なお、控訴人は、被控訴人の背信性をいうが、控訴人を退会した後に別の易占業に関する組織に加盟し、又は同組織を設立すること自体、何ら背信的な行為ということはできない。

以上の諸点を総合考慮すれば、前示内容の本件誓約は、被控訴人が控訴人の組織で易占ないし易占業を修得しようとする立場に立ったことを契機として、あらかじめ、その組織を離れた後の被控訴人の営業の自由までも不当に奪い、これに対して著しく不合理な内容の義務を負わせることで控訴人が不当な利益を得ようとするものと認めるほかはないから、その合意は、民法九〇条の規定により無効というべきである。

よって、控訴人の競業的行為禁止の特約に基づく予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三  結論

以上のとおり、控訴人の被控訴人に対する請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)

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